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マイルス・デイヴィスのアルバムを年別に紹介

1970年のMiles Davis

・3月に「ビッチェズ・ブリュー」をリリース。「俺が本気になれば、世界一のロック・バンドだって作れる」と豪語し、それ以降は、ロックの殿堂と言われるフィルモアや、ワイト島でのロック・フェスに出演するなど、ジャズ外へのファン開拓を目指すようになる。

マイルス・デイヴィス・アット・フィルモアを始め、マイルスが最も野心的だった時期の、熱のこもったライブ盤が充実している。

ジャック・ジョンソン「ライブ・イビル」を録音。

・サックスがウェイン・ショーター(3月フィルモア・イースト)→スティーブ・グロスマン(4月フィルモア・ウエスト、6月フィルモア・イースト)→ゲイリー・バーツ(8月ワイト島)と、短期間で交代している。

・9月18日、マイルスと交流のあったジミ・ヘンドリックスが死去する。マイルスは彼の音楽を高く評価しており、共演の予定もあったという。

「『フィルモア』に出ていた頃、ロックのミュージシャンのほとんどが、音楽についてまったく知らないことに気づいた。勉強したわけでもなく、他のスタイルじゃ演奏できず、楽譜を読むなんて問題外だった。そのくせ大衆が聴きたがっている、ある種のサウンドを持っているのは確かで、人気もあればレコードの売上もものすごかった。自分たちが何をしているのか理解していなくても、彼らはこれだけたくさんの人々に訴えかけて、レコードを大量に売っている。だから、オレにできないわけがないし、オレならもっとうまくできなきゃおかしいと考えはじめた。」マイルス・デイビス自叙伝Ⅱ p.149

A Tribute to Jack Johnson

ジャック・ジョンソン

A TRIBUTE TO JACK JOHN

ジャック・ジョンソン

録音:1970

リリース:1971

[1970/02/18]

Miles Davis – trumpet

Bennie Maupin – bass clarinet

John McLaughlin – electric guitar

Sonny Sharrock – electric guitar

Chick Corea – electric piano

Dave Holland – electric bass

Jack DeJohnette – drums

[1970/04/07]

Miles Davis – trumpet

Steve Grossman – soprano saxophone

John McLaughlin – electric guitar

Herbie Hancock – organ

Michael Henderson – electric bass

Billy Cobham – drums

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ジャック・ジョンソンというボクサーの映画のサウンドトラックとして作られた作品。

・ボクシング好きのマイルスにとってテンションの上がる企画だった。マイルスはジャック・ジョンソンやボクシングに関する書物を読みあさり、過去の名試合の映像を見直し、枕元に彼の写真を飾ったと言われている。一方で、すでに録音してある素材を使ってテオ・マセロに編集を丸投げした作品であるという説もある。

ジョン・マクラフリンエレキギターが大きくフューチャーされている

"Right Off"の途中で出てくるエレキギターのフレーズはジャック・ジョンソンのテーマ」とも言われる。このリフは後に頻繁にライブで演奏されたり、80年代には「ユア・アンダー・アレスト」の冒頭を飾ったりすることで有名。

・「マイルス・アヘッド」と同じく、ジャケットが二種類ある。車の絵のジャケットは本来バックカバーだったものが誤って裏表逆になったものだという。マイルスが抗議し、本来のジャケットであるマイルスの写真に変更になった。

・ベースに当時18歳のマイケル・ヘンダーソンが参加している。

"Yesternow"の一部で「イン・ア・サイレント・ウェイ」の音源が使用されている。

「Complete Jack Johnson Sessions」というコンプリート盤もリリースされている。

・マイルスの作品中、最もロック的な作品と言われており、2006年にマイルスが「ロックの殿堂」入りした際の選考理由になった作品とも言われる。

重要度:★★★★☆

「レコーディングの時にオレの頭にあったのは、ジャック・ジョンソンがパーティー好きで、騒いで踊るのが好きだったから、いかに音楽を黒人的にするか、いかにブラック・リズムを取り込むか、いかに汽車のリズムを黒人的に表現するか、それにジャック・ジョンソンが生きていて、これを聴いたら踊りだすだろうかということだった。」マイルス・デイビス自叙伝Ⅱ p.173

Live at The Fillmore East (March 7, 1970) It's About That Time

Live at The Fillmore East (March 7, 1970) It's About That Time

「ライヴ・アット・ザ・フィルモア・イースト ~ イッツ・アバウト・ザット・タイム」

録音:1970

リリース:2001

[1970/03/07]

Miles Davis: trumpet

Wayne Shorter: soprano and tenor saxophone

Chick Corea: Fender Rhodes electric piano

Dave Holland: acoustic and electric bass

Jack DeJohnette: drums

Airto Moreira: percussion, cuica

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・この頃からマイルスは、ロックファンへのアピールを狙ってロックの殿堂フィルモアに頻繁に出演する。

・最も有名なものが後述の6月録音のもので、この作品は3月のもの。3月6日がフィルモア初出演で、この作品は2日目の3月7日のライブが収録されている

・このステージを最後にウェイン・ショーターが脱退し、その後ウェザー・リポートを結成する。

重要度:★★★☆☆

「オレの音楽は、ミュージシャンを代えるのと同じくらいの速さで変化していったが、それでもまだ、もっと違うサウンドやミュージシャンを求め続けていた。」マイルス・デイビス自叙伝Ⅱ p.169

Black Beauty

ブラック・ビューティー

「ブラック・ビューティー」

録音:1970

リリース:1973

[1970/04/10]

Miles Davis – trumpet

Steve Grossman – saxophone

Chick Corea – electric piano

Dave Holland – bass

Jack DeJohnette – drums

Airto Moreira – percussion

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・4月にサンフランシスコのフィルモア・ウェストに出演した時のライブ

ウェイン・ショーターの後任のサックスは、当時19歳のスティーブ・グロスマン

・当初は日本のみでのリリースだった。

・キーボードのチック・コリアのファンから評価が高い。

重要度:★★★☆☆

「オレにとっては、本当に目を見張らされるコンサートだった。その夜は5000人ほどの客が集まり、しかもそのほとんどが白人の若いヒッピーだったからだ。まずオレを聴いたことがないような連中ばっかりだった。……演奏を始めた時は、歩きまわったり話をしている連中のほうが多かった。だがそのうち静かになって、音楽に浸り切るようになった。」マイルス・デイビス自叙伝Ⅱ p.147

At Fillmore: Live at the Fillmore East

At Fillmore: Live at the Fillmore East

マイルス・デイヴィス・アット・フィルモア

録音:1970

リリース:1970

[1970/06/17~20]

Miles Davis – trumpet

Steve Grossman – tenor and soprano sax

Chick CoreaFender Rhodes electric piano

Keith Jarrett – electronic organ

Dave Holland – acoustic and electric bass

Jack DeJohnette – drums

Airto Moreira – percussion, cuica

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・名ライブとして有名な6月のフィルモア・イーストでの公演。

・電化マイルスの中でも評価と知名度が高いライブ。フル収録ではなくテオ・マセロによりテープ編集されている。完全版はブートレグ・シリーズ Vol.3」で聴ける。

・レコードでリリースされた時には各面が一日という構成になっており、それぞれ、「水曜のマイルス」~「土曜のマイルス」というタイトルになっていた。

キース・ジャレットがオルガンで参加し、チック・コリアのピアノとのキーボード二人体制になっている。

重要度:★★★★☆

「夏の初めには、チック・コリアキース・ジャレットの二人が、オレのレギュラー・バンドにいた。あの二人が一緒に演奏していたなんて、なんとも言いようがないほどすばらしかった。」マイルス・デイビス自叙伝Ⅱ p.174

 

「バンドに入る前のキースがどんな演奏をしていたかは知っていたし、どんな方向に進めるのかもわかっていた。バンドに入る前はエレクトリックを嫌っていたが、オレのバンドでやるうちに奴の考えも変わった。そして、いかにもっと極限に挑戦し、異なったいろんなスタイルで演奏するかを学んだんだ。」マイルス・デイビス自叙伝Ⅱ p.174

Bitches Brew Live

Bitches Brew Live

「ビッチェズ・ブリュー・ライブ」

録音:1969, 1970

リリース:2011

[1969/07/05]

Miles Davis - trumpet

Chick Corea - electric piano

Dave Holland - bass

Jack DeJohnette - drums

[1970/08/29]

Miles Davis - trumpet

Gary Bartz - alto saxophone, soprano saxophone

Chick Corea - electric piano

Keith Jarrett - electronic organ

Dave Holland - electric bass

Jack DeJohnette - drums

Airto Moreira - percussion, cuica

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・「ロスト・クインテット」からショーターが交通渋滞のため遅刻し抜けている、いわゆる「遅刻カルテット」のライブと(1969)、ワイト島でのライブ(1970)が収録されている。

・1969年の「遅刻カルテット」のライブは「ニューポート・ジャズ・フェスティバル1969」のもので、ジャズ・フェスティバルでありながら、レッド・ツェッペリンスライ&ザ・ファミリーストーンが参加していた。

・1970年のワイト島での音楽フェスティバルは、通算60万人以上とも言われる動員を記録した大規模なもので(ほとんどの客は入場料を払わなかったらしい)、ザ・フー、ドアーズ、ジミ・ヘンドリックスなども参加し、客もほとんどがヒッピーという、ロックの時代が頂点を極めたイベントだった。このライブはDVDワイト島のマイルス 1970もリリースされている。

・ワイト島では、曲名を尋ねられたマイルスが「Call it anything (何とでも呼べ)」と答えたというエピソードがある。

・ワイト島でのサックスはゲイリー・バーツ

重要度:★★★☆☆

「あんなに多くの客を前に演奏するのは、あの時(ワイト島)が初めてだった。オレの音楽は、パーカッションとリズムが大きな要素になっていたが、みんな気に入ったようだった。」マイルス・デイビス自叙伝Ⅱ p.179

Live Evil

ライヴ・イヴル

「ライブ・イビル」

録音:1970

リリース:1971

[1970/02/06]

[1970/06/03~04]

[1970/12/19]

Miles Davis: electric trumpet with wah-wah

Gary Bartz: soprano sax, alto sax

John McLaughlin: electric guitar

Keith Jarrett: Fender Rhodes electric piano, Fender Contempo electric organ

Michael Henderson: electric bass

Jack DeJohnette: drums

Airto Moreira: percussion

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スタジオ録音と、ワシントンDCのセラー・ドアでのライブ録音を編集して一つの作品にしたもの。ライブの時間が長く、実質ライブアルバムとも言える。

・ライブの完全版は「The Cellar Door Sessions 1970」に収録されている。

・スタジオ録音には、ブラジルの音楽家エルメート・パスコアールが参加している。

・この時期からマイルスは、トランペットにエレキギター用のエフェクターであるワウペダルを使い始める。マイルスが初めて手にしたワウペダルは、ジミ・ヘンドリックスからのプレゼントだったという。

・曲名の"Selim""Sivad"は、反対にすると"Miles""Davis"となる。またLiveEvilも同様に反対の関係になっている。

・「ジャック・ジョンソン」で起用したベースのマイケル・ヘンダーソンがライブでもメンバーに加わり、ファンク度が増した。

・ライブではチック・コリアが脱退し、キーボードはキース・ジャレット一人になった。

重要度:★★★★☆

「相対するイメージが、このレコードのコンセプトだった。善と悪、明と暗、ファンキーとアブストラクト、生と死といった具合にだ。二つのペインティングを表と裏に配したジャケットで表現しようとしたのも、そういうことだ。あれは片方が愛や誕生を表し、もう片方が悪や死の感覚を示している。」マイルス・デイビス自叙伝Ⅱ p.177-178

 

「この頃にはオレもワウ・ワウを使うようになっていた。ジミがギターでワウ・ワウを使っていたときのボイスに近づきたかったからだ。」マイルス・デイビス自叙伝Ⅱ p.181