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マイルス・デイヴィスのアルバムを年別に紹介

1969年のMiles Davis

「イン・ア・サイレント・ウェイ」が録音・リリースされ、「ビッチェズ・ブリュー」が録音された「エレクトリック・マイルス(電化マイルス)」にとって重要な年。この2作品で、マイルスは本格的に従来のジャズから逸脱していく

・本来「ライブの録音」という面が強かったジャズだが、この時期からのマイルスはレコードという録音作品に特化した音楽を作り始める。その際に、テオ・マセロによるテープ編集が重要な役割を果たし始める。

ベティ・メイブリーと離婚。

・10月に車の中にいたところを拳銃で撃たれる(重症にはならなかった)。マイルスは犯人の情報提供に懸賞金をかけたが、結局捕まらなかった。

・来日公演が予定されていたが、入国許可が下りずキャンセルとなる。

「いいか、オレには創造的な時期ってものが、いつだってあるんだ。『イン・ア・サイレント・ウェイ』から始まった数年間は、一枚一枚のレコードで、まったく違うことをやっていた。どの音楽も、すべて前よりも変わっていたし、誰も聴いたことのないことをやっていた。」マイルス・デイビス自叙伝Ⅱ p.166

In a Silent Way

In a Silent Way

「イン・ア・サイレント・ウェイ」

録音:1969

リリース:1969

[1969/02/18]

Miles Davis – trumpet

Wayne Shorter – soprano saxophone

John McLaughlin – electric guitar

Chick Corea – electric piano

Herbie Hancock – electric piano

Joe Zawinul – organ

Dave Holland – double bass

Tony Williams – drums

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・マイルス作品中、最もアンビエントでミニマルな浮遊感のある異色の作品。

・キーボードのジョー・ザヴィヌルが大きな貢献をした作品だと言われている

・マイルスによくある、レコーディングに際して前任者を呼び戻すということが行われており、バンドを脱退していたトニー・ウィリアムスハービー・ハンコックが参加している。

チック・コリアハービー・ハンコックエレクトリック・ピアノと、ジョー・ザヴィヌルのオルガンというキーボード3台体制。

・ギターにイギリス出身のジョン・マクラフリンを初起用。レコーディングではマイルスに「ギターの弾き方を知らないかのようにプレイしろ」と指示されたという。

・同一テイクを2度使うなど、テオ・マセロのテープ編集が大きな役割を担った。このアルバムに使われたセッションのレコーディングそのものは、非常に短時間のものだったと言われている。

・ザヴィヌルが作った"In a Silent Way"は当初、もっとコード・チェンジの多い曲だったが、マイルスがそれをシンプルなワンコード進行に変えたと言われている。

・マイルス自身は、この作品からの数年間がミュージシャンとして最も創造的な時期だったと語っている。

「ザ・コンプリート・イン・ア・サイレント・ウェイ・セッションズ」というコンプリート盤もある。

ピーター・バラカンがマイルスのベストに挙げる作品。

・「フュージョンというジャンルの先駆け的な作品とされることが多い。この作品に参加したメンバーの多くは、後にフュージョンの中心的なミュージシャンになっていった。

重要度:★★★★★

「〈イン・ア・サイレント・ウェイ〉を見て、オレは彼のやりたいことがわかったし、うまくまとまっていると感じた。リハーサルでジョーが書いた通りに演奏してみると、たくさんのコードが雑然と重なっていて、あまり効果的とは思えなかった。それでも、そこに隠されている美しいメロディがオレには聞こえていた。で、レコーディングの時、オレはコードの書いた紙を捨てさせて、全員にただメロディを演奏し、その後もそれだけを基に演奏するよう指示した。」マイルス・デイビス自叙伝Ⅱ p.138-139

1969 Miles

1969マイルス

「1969マイルス」

録音:1969

リリース:1993

[1969/07/25]

Miles Davis – trumpet

Wayne Shorter – soprano saxophone, tenor saxophone

Chick Corea – electric piano

Dave Holland – bass

Jack DeJohnette – drums

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・長い間公式音源がなかったことから、「ロスト・クインテットと呼ばれるメンバーによるライブ。1993年にリリースされた。

・メンバーはマイルスとウェイン・ショーター(サックス)、チック・コリア(キーボード)、デイヴ・ホランド(ベース)、ジャック・ディジョネット(ドラム)。

・アコースティック期の曲から、「ビッチェズ・ブリュー」に収録されることになる最新の曲まで、様々な時期の曲を演奏している。

・ジャケットは1980年代にマイルスが愛用していた服のブランド「アーストンボラージュ」の佐藤孝信によるもの。

ブートレグ・シリーズ Vol.2」にも同じライブが収録されているが、音質に違いがある。

重要度:★★★★☆

「『イン・ア・サイレント・ウェイ』を終えると、新しいバンドでツアーに出た。ウェイン、デイブ、チック、それにジャックがオレのメンバーになっていた。これまたすばらしいバンドだったから、ちゃんとしたライブレコーディングがないのは本当に残念だ。チックか他の誰かが個人的に何回かレコーディングしていたとは思うが、コロンビアは完全にミスってしまった。」マイルス・デイビス自叙伝Ⅱ p.140

Bitches Brew

BITCHES BREW

「ビッチェズ・ブリュー」

録音:1969~1970

リリース:1970

[1969/08/19~21]

[1970/01/28]

Miles Davis – trumpet

Wayne Shorter – soprano saxophone

Bennie Maupin – bass clarinet

Joe Zawinul – electric piano – Left

Chick Corea – electric piano – Right

John McLaughlin – electric guitar

Dave Holland – bass

Harvey Brooks – electric bass

Lenny White – drum set – Left

Jack DeJohnette – drum set – Right

Don Alias – congas, drum set – Left(B3)

Juma Santos (credited as "Jim Riley") – shaker, congas(A2,B2,B3,B4)

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・2枚組の大作で、「カインド・オブ・ブルー」と並ぶ、マイルスのヒット作

・この辺りから従来のジャズファン層を離れ、ロックを聴くような層へのアピールを強める。

・複数のドラムとパーカッションが組み合わさった複雑なリズムが特徴的。

・メンバーの名前そのままの"John McLaughlin"という曲は、元々"Bitches Brew"という曲の一部だった。

・レコーディングは1969年8月の三日間で行われた。CDのボーナストラック"Feio"だけは1970年の別の日のセッションの録音。

「ザ・コンプリート・ビッチェズ・ブリュー・セッションズ」というコンプリート盤や、タングルウッドでのライブを収録した「Bitches Brew: 40th Anniversary Collector's Edition」などがリリースされている。

・マイルスのベストとして挙げられることも多い、ジャズの枠を越えた名作。このアルバムで自身初のグラミー賞を獲得する一方で、当時賛否両論が非常に激しかった作品でもある。リスナー側から見ると、この作品をどう評価するかで、その人のマイルスに対する考え方が決定するような側面もある。

重要度:★★★★★

「オレの音楽には未来があった。今だって、それにいつだってそうしてきたように、オレはそれに向かって進むつもりだった。それは、決してコロンビアやレコード会社のためじゃない、若い連中にレコードを売るためでもない。自分のためであり、自分の音楽に必要なもののためだった。進むべき道を変えたかったし、自分の演奏を愛し、信じるためには、どうしても進路を変えなければならなかったんだ。」マイルス・デイビス自叙伝Ⅱ p.142-143